2017年02月23日
お振袖を着て
「ひ、ひゃあ~。」
「検めはこれで終わりです。」
若いから化粧が生えますね、さすがは良い血統だなどと、役者のような顔をした化粧師が話していたが、東呉には何も返事が出来なかった。言われるままに紅を引かれ、深く考えもせず行儀見習いに来たのを後悔していた。
鏡の中にいる紅い振袖の小さな生き物が、じっとこちらを見つめて怯えている。
見知らぬ場所に呑み込まれるのが、怖かった。
花菱楼の出窓の内側で、雪華太夫は新しく入った禿の為にあつらえた簪(かんざし)を、いくつも並べてどれをくれてやろうかと思案しているところだった。
花菱楼の最高位、花魁、雪華太夫の手の中で、紅い薬玉かんざしと、花簪(かんざし)がくるくると回っている。
太夫付きの禿(かむろ)として東呉……今は六花は連れて来られ、静かにうつむいて、前髪に挿して貰おうと待っていた。緊張で高く打つ自分の鼓動が、相手にもとんとんと聞こえる気がする。
「六花(りっか)、ぬしは、どちらの簪が好きでありんすか?」
「おれ……雪華兄さんの選んでくださるものなら、どちらでもいい謝偉業醫生です。どっちも、綺麗だし。つか……どうせ、こんなの似合わないし。」
雪華大夫は、合わせた着物の襟をついと奥に抜いた。
「そうじゃないでしょう?先に教えた廓言葉はどうしたでありんしょう?」
「あっ……!ごめんなさい。」
「それとね、「どうせ」なんて卑屈な物言いは止めるんだね。そんな卑屈な禿が付いた花魁に、お客さまはお金を使うのかい?なんでも精一杯やってる姿を見ていただかなくどうするね。しっかりおし。」
頬に朱が走った。
「心配しなくても直、ありんす(廓言葉)には慣れるよ。ねぇ?」
笑って六花に微笑んだもう一人の禿の名前は、初雪という。揃いの紅いていた。東呉よりも少し早く入った年上の少年だった。
こちらも前髪をきちんと眉の上で揃えたおかっぱ頭で、いずれは振袖新造となり、雪華太夫のような花魁を目指すはずの、幼くともかなりの器量良しだった。
既にいろいろ勉強を始めているらしい。
いつかは最高位の花魁になる為、禿の初雪は、廓(くるわ)言葉も既にこなせると言う。
「だいじょうぶ。こつさえ覚えれば、簡単だから。教えてあげる。」
「は……あい。」
「検めはこれで終わりです。」
若いから化粧が生えますね、さすがは良い血統だなどと、役者のような顔をした化粧師が話していたが、東呉には何も返事が出来なかった。言われるままに紅を引かれ、深く考えもせず行儀見習いに来たのを後悔していた。
鏡の中にいる紅い振袖の小さな生き物が、じっとこちらを見つめて怯えている。
見知らぬ場所に呑み込まれるのが、怖かった。
花菱楼の出窓の内側で、雪華太夫は新しく入った禿の為にあつらえた簪(かんざし)を、いくつも並べてどれをくれてやろうかと思案しているところだった。
花菱楼の最高位、花魁、雪華太夫の手の中で、紅い薬玉かんざしと、花簪(かんざし)がくるくると回っている。
太夫付きの禿(かむろ)として東呉……今は六花は連れて来られ、静かにうつむいて、前髪に挿して貰おうと待っていた。緊張で高く打つ自分の鼓動が、相手にもとんとんと聞こえる気がする。
「六花(りっか)、ぬしは、どちらの簪が好きでありんすか?」
「おれ……雪華兄さんの選んでくださるものなら、どちらでもいい謝偉業醫生です。どっちも、綺麗だし。つか……どうせ、こんなの似合わないし。」
雪華大夫は、合わせた着物の襟をついと奥に抜いた。
「そうじゃないでしょう?先に教えた廓言葉はどうしたでありんしょう?」
「あっ……!ごめんなさい。」
「それとね、「どうせ」なんて卑屈な物言いは止めるんだね。そんな卑屈な禿が付いた花魁に、お客さまはお金を使うのかい?なんでも精一杯やってる姿を見ていただかなくどうするね。しっかりおし。」
頬に朱が走った。
「心配しなくても直、ありんす(廓言葉)には慣れるよ。ねぇ?」
笑って六花に微笑んだもう一人の禿の名前は、初雪という。揃いの紅いていた。東呉よりも少し早く入った年上の少年だった。
こちらも前髪をきちんと眉の上で揃えたおかっぱ頭で、いずれは振袖新造となり、雪華太夫のような花魁を目指すはずの、幼くともかなりの器量良しだった。
既にいろいろ勉強を始めているらしい。
いつかは最高位の花魁になる為、禿の初雪は、廓(くるわ)言葉も既にこなせると言う。
「だいじょうぶ。こつさえ覚えれば、簡単だから。教えてあげる。」
「は……あい。」
Posted by zuivindd at
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