2017年03月06日
と手組んだ
やり手は話をやめた。これ以上会話を続けたら、同情してしまいそうで不安になる。
本郷宮に花菱楼が手渡した金は、一万円という値段だったと聞いている。これまでに柏宮は花菱楼に何代にもわたって金を落としてきた上得意だったから、楼主がぽんと札束を積み上げたという話だ。上前をはねて五千円という半金が本郷宮の懐に入ったことになる。
やり手は基尋を転がすと、膝を抱えてすのこの上に横になりなと告げた。
……ふと、男の背後に硝子の大きな注射器が満たされて、金属の盆の上に置かれているのが見え、怖気て思わず凝視する。
基尋の視線に気付いた男が、上気した顔でふっとほくそ笑むと、恐ろしい般若に見えた。
「これが気になるかい?これは、お前さんの腹の中を綺麗に洗う道具だよ。」
取り上げて空気を逃がし、ギシ……と、硝子の軋む音をさせた。
やり手がにっと歯茎を見せて酷薄に笑った。
基尋は、大きな目を見開いたままその場に凍り付いた。決心をして花菱楼の木戸をくぐっってここまで来たが、何もつけずに湯に漬けられた上、着物をすべて奪われた。
男の指は命婦が遠慮がちに洗う基尋のささやかな「御前(おまえ)」さえ、容赦なく乱暴に扱いた。勃ちあがったりはしなかったが、身体だけではなく腹の中まで洗うと言う男の話が信じられなかった。
やり手は思わず、へぇ……と頭を下げた。
「嘘をお言いでないよ。あっ、怪我をしているじゃないか!……お前、この子に一体何をしたんだ?」
雪華花魁は半纏に包まれて蒼白になっている基尋の素足から、ぽたぽた拭いを通して鮮血が落ちるのを認めた。奪うように半纏ごと基尋を受け取ると、軽々と胸に抱き上げた。
「木戸をくぐったその日に、子供にこんな大怪我をさせるなんて。事と次第によっちゃ、お前は花菱楼どころか大江戸からも追放だ。お父さんにはわっちからよくよく話をしておくから覚悟を決めて、とっとと荷物をまとめるんだね。」
「そ、そんな……花魁。これは本郷の宮様に頼まれたんだ。俺が仕ことじdermes 價錢ゃありやせん。ちょいと脅してやるつもりが、この子が暴れて硝子管を踏んづけて……。後生だ、どうぞ堪忍しておくんなさい。」
雪華花魁は本郷の宮と聞いて、柳眉をひそめた。
Posted by zuivindd at 12:28│Comments(0)