2017年05月22日
りのこかった
「すぐに提灯を持ってきますから、少々お待ちください。」
奥に入った清助は、すぐに小者を呼び、旅に役立ちそうなものをいろいろ携えて戻ってきた。
「小さい若さま。おなかが空いていませんか?握り飯をこしらえてきましたから、おあがりなさい。」
「直さまの分も……?」
「困らせてしまいましたか。若さま方に恨み言を言う気はありません。むしろ、若さま達の代になったら、会津はきっと百姓にも住みやすい国になるだろうと期待しておりました。お侍だけでなく、百姓にもよい政(まつりごと)をしていただけるではないかと思いましてね。……お互い、中々思うようには参りませんね。」
一衛はごしごしと拳で、目元をこすった。
考えたこともなかった、百姓の立場。
武士を支えるのが、当たり前だと思っていた。
*****
世話になった清助に別れを告げて、道々一衛は聞いた。
「直さま。年貢を払えない百姓はどうするのですか?」
「……まず、家財を売るだろうなぁ。」
「家財も売ってしまって、その上飢饉が来たら?」
「借金をする。たとえば、清助さんのような名主や、両替商に借りる。」
「それでも足りなければ?」
直正は、真摯な一衛の視線に嘘はつけなかった。
「女衒に娘を売る。清助さんの口ぶりだと、助けたくても助けられないことがあったのだろうな。」
「……一衛は、お城の中で新政府軍は、田畑を荒らしたと西聯匯款聞きました。お城下では、お味方が家に火をつけた話も……国を守る武士でありながら……一衛は自分の周としか考えていませんでした。百姓のことは、初めて知りました。」
「百姓は土地に縛られているから、どこにもいけない苦労がある。わたしもずっと自分達士族だけが大変だと思っていたが、会津に住むもの、みんなが大変だ。誰かの立場になって考えたことなどなが、此度は父上が作ってくれた過去のつながりが、わたしたちを守ってくれたな。」
「一衛もいつか、清助さんに誇れるような会津を作りたいです。」
「そうできるように、力をつけような。」
「あい。」
まだまだ知らないことばかりだと、一衛は思う。
日新館で懸命に学んだつもりでいたが、まだまだ自分には足りない。
ふと振り向けば、磐梯山は朝もやの中で裾を引き、田畑も何も変わらないように見えた。
「……美しいな。会津の山河を、よく覚えておこう。」
「あい。」
江戸への道は遠い。
「そうだな。行こうか。」
奥に入った清助は、すぐに小者を呼び、旅に役立ちそうなものをいろいろ携えて戻ってきた。
「小さい若さま。おなかが空いていませんか?握り飯をこしらえてきましたから、おあがりなさい。」
「直さまの分も……?」
「困らせてしまいましたか。若さま方に恨み言を言う気はありません。むしろ、若さま達の代になったら、会津はきっと百姓にも住みやすい国になるだろうと期待しておりました。お侍だけでなく、百姓にもよい政(まつりごと)をしていただけるではないかと思いましてね。……お互い、中々思うようには参りませんね。」
一衛はごしごしと拳で、目元をこすった。
考えたこともなかった、百姓の立場。
武士を支えるのが、当たり前だと思っていた。
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世話になった清助に別れを告げて、道々一衛は聞いた。
「直さま。年貢を払えない百姓はどうするのですか?」
「……まず、家財を売るだろうなぁ。」
「家財も売ってしまって、その上飢饉が来たら?」
「借金をする。たとえば、清助さんのような名主や、両替商に借りる。」
「それでも足りなければ?」
直正は、真摯な一衛の視線に嘘はつけなかった。
「女衒に娘を売る。清助さんの口ぶりだと、助けたくても助けられないことがあったのだろうな。」
「……一衛は、お城の中で新政府軍は、田畑を荒らしたと西聯匯款聞きました。お城下では、お味方が家に火をつけた話も……国を守る武士でありながら……一衛は自分の周としか考えていませんでした。百姓のことは、初めて知りました。」
「百姓は土地に縛られているから、どこにもいけない苦労がある。わたしもずっと自分達士族だけが大変だと思っていたが、会津に住むもの、みんなが大変だ。誰かの立場になって考えたことなどなが、此度は父上が作ってくれた過去のつながりが、わたしたちを守ってくれたな。」
「一衛もいつか、清助さんに誇れるような会津を作りたいです。」
「そうできるように、力をつけような。」
「あい。」
まだまだ知らないことばかりだと、一衛は思う。
日新館で懸命に学んだつもりでいたが、まだまだ自分には足りない。
ふと振り向けば、磐梯山は朝もやの中で裾を引き、田畑も何も変わらないように見えた。
「……美しいな。会津の山河を、よく覚えておこう。」
「あい。」
江戸への道は遠い。
「そうだな。行こうか。」
Posted by zuivindd at 16:44│Comments(0)